微粒子の感覚学 § 14


私たちは様々な記号系の中で思考している。それぞれの記号系が固有の内包量と外延量の連結関係や切断関係を持っている。それらの記号のいずれかを使用するとき、私たちはその記号を成立させる連結関係や切断関係をなすために、その内包量と外延量を与える切断を、私たちの世界に導入するように仕向けられる。しかし、一度その記号が成立すると、私たちはその記号系に仕向けられているわけでもいないのに、その記号が繰り返す感覚の多を私たちの世界から切断する。するとたちまち、私たちはそれらの感覚とは異なる様々な感覚を思考し始める。なぜならば、その記号が繰り返す感覚と平行する微粒子群のそれぞれが、他の感覚と平行する微粒子群との相互作用域を持っているからである。そうした非記号的な感覚たちの中に、反復したり繰り返されたりするものがある場合、私たちは更に、その感覚を私たちの世界から切断する。そして、私たちはその切断によって与えられた内包量と外延量を、記号系におけるものとは異なる、様々な連結関係や切断関係に置いてみるのだ。そうすることによって、私たちは自らの世界に、それらの感覚と平行する微粒子群からなる、ある構成体を作り出そうとする。その構成体はそれらの微粒子群の相互作用域における微粒子たちの運動や静止を反復させるものである。
微粒子たちの運動や静止を反復させる構成体には二つのタイプがある。一つは、異なる微粒子群の組み合わせから、同じ運動や静止の反復をもたらす構成体であり、もう一つは、異なる微粒子群の組み合わせから、異なる運動や静止の反復をもたらす構成体である。前者(異から同)の場合、その構成体は不特定の微粒子群どうしを組み合わせることによって、特定の運動や静止の反復をもたらす。それ故、私たちが何らかの微粒子群から、その構成体を作り出すことが出来るのならば、その都度、同じ運動や静止がもたらされることになる。一方、後者(異から異)の場合、その構成体は不特定の微粒子群どうしを組み合わせることによって、不特定の運動や静止の反復をもたらす。それ故、私たちが何らかの微粒子群から、その構成体を作り出すことが出来るのならば、その都度、異なる運動や静止がもたらされることになる。
これらの構成体は言わば、定義域の定まっていない関数のようなものである。通常の関数は「実数全体」とか、「-5以上、3以下の自然数」とか、「半径r以下の複素数」とか、その定義域が予め定まっている。このとき、その関数の表現する関係はその定義域の指示する対象間で成立するが、それ以外の対象間では成立するかどうかは分からない。一方、これらの構成関係は、それがどのような対象間で成立するのか予め定まっているわけではない。私たちは様々な微粒子群を実際に組み合わせることによって、それらがその構成関係をなすことが出来るのかどうか試してみるしかないのだ。そして、それらの相互作用域の運動や静止が実際に反復したとき、初めて、私たちはそれらがその構成関係の対象であることを知る。しかし、それらがその対象であることを知ったからと言って、それらの微粒子群が次の機会にもまたその対象になってくれるとは限らない。なぜならば、その対象となる微粒子群と平行する感覚は非記号的なものであり、私たちにはその運動や静止を積極的に繰り返すことが出来ないからである。
また、異から同の構成体は言わば、定義域は定まっていないが値域の定まっている関数のようなものであり、一方、異から異の構成体は言わば、定義域ばかりでなく値域もまた定まってない関数のようなものである。通常の関数は定義域内のいずれかの対象が与えられると、それに対応するべく定められた対象が与えられる。その対象の範囲がその関数の値域である。異から同の構成体の場合、非記号的な感覚と平行する微粒子群が実際にその構成関係をなすことが出来るのならば、その構成体において反復する運動や静止は予め定められている。一方、異から異の構成体の場合、非記号的な感覚と平行する微粒子群が実際にその構成関係をなすことが出来たとしても、その構成体において反復するのは予定された運動や静止ではない。その運動や静止が実際に反復したとき、初めて、私たちはそれがその構成体によってもたらされる対象であることを知る。しかし、それがその対象であることを知ったからと言って、その運動や静止が次の機会もまたその対象になってくれるとは限らない。なぜならば、その構成体は反復する運動や静止をもたらすものなのであって、その運動や静止がどのようなものであるかを定めるものではないからである。
何らかの非記号的な感覚と平行する微粒子群どうしから、異から同の構成体を作り出すことが出来るのならば、私たちはその都度同じ感覚を思考することになる。一方、異から異の構成体を作り出すことが出来るのならば、私たちはその都度異なる感覚を思考することになる。いずれにせよ、その構成体は非記号的な感覚の内包量と外延量どうしを何らかの連結関係や切断関係に置くことを通じて作り出される。そうした構成体によって、その相互作用域における微粒子たちの運動や静止が反復するとき、私たちはその微粒子群と平行する最単純な感覚に「美しさ」を感じるのだ。




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