微粒子の感覚学 § 8


さて、楽音の内包量である「高さ」「強さ」と楽音の束の内包量である「速さ」から、「母音」や「子音」に相当するものを分節することが出来ないだろうか。
今、議論を簡単にするため、「高さ」の内包量は「高」「中」「低」の3種にしか区別されず、「強さ」の内包量は「強」「平」「弱」の3種にしか区別されず、「速さ」の内包量は「速」「常」「遅」の3種にしか区別されないものとする。そして、次のように、それぞれの内包量を切断関係(|)に置き、更に、それらを連結関係(‐)に置く:

(高|中|低)‐(強|平|弱)‐(速|常|遅)。

このとき、その連結・切断関係から、

高音‐強音‐速音  中音‐強音‐速音  低音‐強音‐速音
高音‐強音‐常音  中音‐強音‐常音  低音‐強音‐常音
高音‐強音‐遅音  中音‐強音‐遅音  低音‐強音‐遅音
高音‐平音‐速音  中音‐平音‐速音  低音‐平音‐速音
高音‐平音‐常音  中音‐平音‐常音  低音‐平音‐常音
高音‐平音‐遅音  中音‐平音‐遅音  低音‐平音‐遅音
高音‐弱音‐速音  中音‐弱音‐速音  低音‐弱音‐速音
高音‐弱音‐常音  中音‐弱音‐常音  低音‐弱音‐常音
高音‐弱音‐遅音  中音‐弱音‐遅音  低音‐弱音‐遅音

という27(=3×3×3)音が区別される。従って、ある音の連なりが与えられたとき、精神はその「高さ」「強さ」「速さ」の変化に応じて、それを例えば、(高音‐強音‐速音)/(中音‐平音‐常音)/(低音‐弱音‐遅音)という三つの音に分節することが出来る。こうして、それらの27音を音節と同じように働かせることが出来る。
勿論、その「高さ」「強さ」「速さ」の内包量を更に細かく区別することが出来るのならば、それだけ多くの音が与えられる。即ち、「高さ」にn種、「強さ」にm種、「速さ」にl種あるとすると、原理上、(n×m×l)種の音を区別することが出来る。ただし、音声の「速さ」を感じるためにはある程度の持続時間が必要であり、そのため、この連結・切断関係によって分節される音の連なりは「いろは」に分節される音の連なりよりも相対的に長くなる。これを避けるため、その連結・切断関係から「速さ」の内包量を省くことも可能である。即ち、

(高|中|低)‐(強|平|弱)。

 この連結・切断関係から、

高音‐強音  中音‐強音  低音‐強音
高音‐平音  中音‐平音  低音‐平音
高音‐弱音  中音‐弱音  低音‐弱音

という9(=3×3)音が区別される。しかし、この場合、「高さ」と「強さ」の内包量を十分に細かく区別しなければ、音節に匹敵するだけの種数を確保することが出来ない。
日本語の場合、5種の「母音」と25種の「子音」や「半母音」があるので、原理上、125(=5×25)音を区別することが出来る(実際の種数はもっと少ない)。従って、私たちが2オクターブの音の発声を共有出来るのならば、「高さ」には「変音」や「嬰音」も含めて25種あることになり、故に、「強さ」を5種に区別することが出来れば、日本語と同じだけの音韻の種数を確保したことになる。こうして、音楽的要素によっても、言語に必要な「音節」を揃えることが出来るわけである。




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